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Original file line number | Diff line number | Diff line change |
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@@ -0,0 +1,117 @@ | ||
楊貴妃(ようきひ) | ||
|
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季 秋 | ||
所 蓬莱宮 | ||
素謡時間 55分 | ||
【分類】三番目物 | ||
【作者】禅竹氏信 典拠:長恨歌による | ||
【登場人物】シテ:楊貴妃、ワキ:方士 | ||
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詞章(胡山文庫) | ||
|
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ワキ | ||
〔次第上〕 我がまだ知らぬ東雲の。/\。道を何処と尋ねん。 | ||
〔詞〕 是は唐土玄宗皇帝に仕へ申す方士にて候。扨も我が君政正しくまします中に。色を重んじ艶を専とし給ふにより。容色無双の美人を得給ふ。楊家の娘たるに因つて其名を楊貴妃と号す。然れどもさる子細あつて。馬嵬が原にて失ひ申して候。余りに帝歎かせ給ひ。急ぎ魂魄の在所を尋ねて参れとの宣旨に任せ。上碧落下黄泉まで尋ね申せども。更に魂魄の在所を知らず候。茲に未だ蓬莱宮に至らず候ふ程に。此度蓬莱宮にと急ぎ候。 | ||
〔道行上〕 尋ね行く。幻もがなつてにても。/\。魂の在所は其処としも。波路を分けて行く船の仄に見えし島山の。草の仮寐の枕ゆふ。常世の国に着きにけり。/\。 | ||
〔詞〕 急ぎ候ふ程に。 蓬莱宮に着きて候。この処にて委しく尋ねばやと存じ候。 | ||
〔狂言シカ〕 /\ | ||
ワキ | ||
〔カカル上〕 有りし教に随つて蓬莱宮に来て見れば。空殿盤々として更に辺際もなく。荘厳巍々としてさながら七宝をちりばめたり。漢宮万里の粧。長生驪山のありさまも。これにはさらになぞらふべからず。あら美しの所やな。 | ||
〔詞〕 又教の如く宮中を見れば。太真殿と額の打たれたる宮あり。まづこの所に徘徊し。事の由をもうかゞはゞやと存じ候。 | ||
シテ | ||
〔サシ上〕 昔は驪山の春の園に。共に眺めし花の色。移れば変る習とて。今は蓬莱の秋の洞に。独り眺むる月影も。濡るゝ顔なる袂かな。あら恋しの古やな。 | ||
ワキ | ||
〔詞〕 如何にこの内へ案内申し候。 | ||
〔カカル上〕 唐の天子の勅の使。方士これまで参りたり。玉妃は内にましますか。 | ||
シテ | ||
〔上〕 なに唐帝の使とは。何しにこゝに来れるぞと。九華の帳を押しのけて。玉の簾をかかげつゝ。 | ||
ワキ | ||
〔上〕 立ち出で給ふ御姿を見れば。 | ||
シテ | ||
〔上〕 雲の鬢づら。 | ||
ワキ | ||
〔上〕 花の顔ばせ。 | ||
シテ・ワキ | ||
〔上〕 寂寞たる御眼のうちに。涙を浮べさせたまへば。 | ||
(小謡「梨花一枝」ヨリ「理りや」マデ) | ||
地 | ||
〔上〕 梨花一枝 雨を帯びたる粧の。/\。太液の芙蓉の紅未央の柳の緑もこれにはいかで優るべき。げにや六宮の粉黛の顔色の無きも。理や顔色のなきも理りや。 | ||
ワキ | ||
〔詞〕 如何に申し上げ候。さても后宮世にまし/\し時だにも。朝政は怠り給ひぬ。況んやかくならせ給ひて後。唯ひたすらの御歎に。今は御命も危く見えさせ給ひて候。然れば宣旨に任せ是まで尋ね参り。御姿を見奉る事。 | ||
〔下〕 唯これ君の御志浅からざりし故と思へば。いよいよ御痛はしうこそ候へ。 | ||
シテ | ||
〔詞〕 げに/\汝が申す如く。今はかひなき身の露の。有るにもあらぬ魂のありかを。かように尋ね給ふ事。御情には似たれども。 | ||
〔下〕 訪ふにつらさのまさり草。枯々ならば中々に。便の風は恨めしや。 | ||
〔下二〕 又今更の恋慕の涙。旧里を思ふ魂を消す。 | ||
ワキ | ||
〔カカル上〕 さてしも有るべき事ならねば。急ぎ帰りて奏聞せん。 | ||
〔詞〕 さりながら御形見の物をたび給へ。 | ||
シテ | ||
〔詞〕 これこそありし形見よとて。玉の釵とり出でて。 | ||
|
||
〔カカル上〕 方士に与へ給びければ。 | ||
ワキ | ||
〔詞〕 いやとよこれは世の中に。たぐひ有るべき物なれば。いかでか信じ給ふべき。御身と君と人知れず。契り給ひし言の葉あらば。それをしるしに申すべし。 | ||
シテ | ||
〔詞〕 げに/\これも理なり。思ひぞ出づる我も又。 | ||
〔上〕 その初秋の七日の夜。二星に誓ひし事の葉にも。 | ||
(小謡「天に在らば願はくば」ヨリ「涙かな」マデ) | ||
地 | ||
〔下〕 天に在らば願はくば。比翼の鳥とならん。地に在らば願はくは。連理の枝とならんと誓ひし言を。密に伝へよや。私語なれども今洩れ初むる涙かな。 | ||
地 | ||
〔上〕 されども世の中の。/\。流転生死のならひとて。その身は馬嵬に留まり魂は仙宮に至りつゝ。比翼も友を恋ひ独り翅をかたしき。連理の枝朽ちて。忽ち色を変ずとも。同じ心の行くへならば。終の逢ふ瀬を頼むぞと語り給へや。 | ||
ワキ | ||
〔ロンギ上〕 さらばといひて出舟の。伴ひ申し帰るさと。思はゞ嬉しさのなほ如何ならんその心。 | ||
シテ | ||
〔上〕 我は又なになか/\に三重の帯。廻り逢はんも知らぬ身に。よしさらば暫し待て有りし夜遊をなすべし。 | ||
地 | ||
〔上〕 げにや驪山の宮の内。月の夜遊の羽衣の曲。 | ||
シテ | ||
〔上〕 そのかざしにて舞ひしとて。 | ||
地 | ||
〔上〕 又取りかざし。 | ||
シテ | ||
〔上〕 さす袖の。 | ||
地 | ||
〔上〕 そよや霓裳羽衣の曲。そよや霓裳羽衣の曲そゞろに。濡るゝ袂かな。 | ||
〘物着〙 | ||
シテ | ||
〔上〕 何事も夢幻のたはぶれや。 | ||
地 | ||
〔上〕 あはれ胡蝶の舞ならん。 | ||
〘イロヱ〙 | ||
シテ | ||
〔クリ上〕 それ過去遠々の昔を思へば。いつを衆生の始と知らず。 | ||
地 | ||
〔上〕 未来永々の流転。更に生死の終もなし。 | ||
シテ | ||
〔サシ上〕 然るに二十五有の内。何れか生者必滅の理に洩れん。 | ||
地 | ||
〔上〕 先天上の五衰より。須弥の四州のさま%\に。北州の千年つひに朽ちぬ。 | ||
シテ | ||
〔下〕 いはんや老少。不定の境。 | ||
地 | ||
〔下〕 歎の中の歎とかや。 | ||
(仕舞「我もそのかみは」ヨリ「別れなりけれ」マデ) | ||
シテ | ||
〔クセ下〕 我もそのかみは。上界の諸仙たるが。往昔のちなみありて。仮に人界に生れ来て。楊家の深窓に養はれ。いまた知る人なかりしに。君聞し召されつゝ。急ぎ召しいだし后宮に定め置き給ひ。偕老同穴のかたらひも縁尽きぬれば徒らに。又この島にたゞ一人。帰り来りて澄む水の。あはれはかなき身の露の。たまさかに逢ひ見たり。静かに語れ憂き昔。 | ||
(独吟「さるにても」ヨリ「別れなりけれ」マデ) | ||
シテ | ||
〔上〕 さるにても。思ひ出づれば恨ある。 | ||
地 | ||
〔上〕 その文月の七日の夜。君とかはせし睦言の比翼連理の言の葉も枯々になる私語の。笹の一夜の契だに名残は思ふ習なるに。ましてや年月馴れて程経る世の中に。さらぬ別のなかりせば。千代も人には添ひてましよしそれとても遁れ得ぬ。会者定離ぞと聞く時は。逢ふこそ別れなりけれ。 | ||
地 | ||
〔上〕 羽衣の曲。 | ||
〘序ノ舞〙 | ||
シテ | ||
〔上〕 羽衣の曲。稀にぞ返す。乙女子が。 | ||
地 | ||
〔上〕 袖打ち振れる。心しるしや。/\。 | ||
シテ | ||
〔上〕 恋しき昔の物語。 | ||
地 | ||
〔下〕 恋しき昔の物語。尽くさば月日も移り舞の。しるしの釵又賜はりて。暇申してさらばとて。勅使は都に帰りければ。 | ||
シテ | ||
〔上〕 さるにても/\。 | ||
地 | ||
〔上〕 君にはこの世逢ひ見ん事も蓬が島つ鳥。浮世なれども恋しや昔はかなや別の常世の台に。伏し沈みてぞとどまりける。 |
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